全社戦略とは

全社戦略の意味

企業は経営理念や経営ビジョンの実現に向け、どの事業領域で戦い、どの事業領域からは手を引くのか、社内の限りあるリソースをどの事業領域にどの程度割くのかを決定する必要があります。このような経営理念や経営ビジョンの実現に向けた全社視点での戦略を全社戦略と言います。似ている言葉で「事業戦略」がありますが、これは企業が保有する一つの事業内での戦略のことを言います。(これらの詳細は経営戦略における経営理念と経営ビジョンの役割事業戦略とはをそれぞれクリック)
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経営理念や経営ビジョンに対する全社戦略の意味

事業ライフサイクルを考慮する

まず、どの事業領域にどの程度リソースを割くのかを検討する上で、事業ライフサイクルの考え方を理解する必要があります。事業ライフサイクルとは一般的に事業は以下の図のように導入期成長期成熟期衰退期の4つのステップをたどるものと考えており、自社の各事業がそれぞれどこのステップに居るかによって、各事業に投入すべきリソースが変わるというものです。
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全社戦略における事業ライフサイクルの説明.
例えば導入期であれば、売上や利益は低いですが、設備の初期投資や需要拡大のために積極投資を行う必要があります。成長期であれば、売上や利益は上昇しますが、競争が激しくなるので他社との差別化のためにも引き続き積極投資を行う必要があります。成熟期では、製品やサービスで他社と差別化することが困難になり、売上成長率も鈍化するので、適正投資で利益を確保します。そして、衰退期は事業から撤退する企業が増えるため、最小投資で残った利益を獲得します。このように各ステップにより最適な投入すべきリソースが異なるので、事業ライフサイクルを理解した上で、自社のリソースをどの事業にどの程度振り分けるか検討する必要があります。(詳細は事業ライフサイクルとはを参考)

PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)分析でリソース配分を考える

事業ライフサイクルの考え方に、更に競争状況(自社のマーケットシェア)も加味してリソース配分を検討できるフレームワークがPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)分析です。これは「マーケットシェア」を横軸、「市場成長率」を縦軸に取り、事業のタイプを4種類(負け犬、金のなる木、スター、問題児)に分類してリソース配分を検討します。例えば、自社が事業A、事業B、事業Cを有する場合、PPM分析を行うと下図のようになり、それぞれの事業は負け犬、金のなる木、スター、問題児のどれかに分類されることになります。この際、一般的に円の大きさは売上規模を示します。
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全社戦略におけるPPMの説明.
負け犬に属する事業Aはマーケットシェアが低く、市場成長率も低いので、撤退を検討すべき事業になります。これは、マーケットシェアが低いので、利益を出しにくく(※1)、市場成長率も低いので積極投資してもリターンが望めず(※2)、需要は落ち続けて年々利益が下がるからです。
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※1:マーケットシェアが低いとコストメリットが効かず利益が出にくくなります。これは製品を多く生産すればするほど、その製品一つ当たりのコストを安く抑えることができるという規模の経済性の考え方に基づいています(詳細は規模の経済性とはを参考)

※2:市場成長率が低いというのは、先ほどの事業ライフサイクルの考え方では成熟期や衰退期に該当し、投資しても市場全体が伸びず、売上も上がらないので、リターンが望めません。

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次に、金のなる木に属する事業Bはマーケットシェアが高く、市場成長率は低いので、投資は控えながらもしっかり利益を稼げる事業です。スターに属する事業Cはマーケットシェアが高く、市場成長率も高いので、積極投資を行いながらも利益を稼げる事業です。ちなみに、問題児に属する事業はマーケットシェアが低く、市場成長率は高いので、積極投資を行ってシェアを上げるとスターに格上げできる可能性を秘めています。よって、事業Aと事業Bにはあまり投資せず、事業Cには積極投資するというようにPPM分析から自社のリソースの配分を検討することができます。(詳細はPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)分析とはを参考)

アンゾフの事業拡大マトリクスで事業の成長を考える

更に、自社の成長や事業の拡大を考える上で、アンゾフの事業拡大マトリクスというフレームワークが有名です。これは縦軸に「市場」、横軸に「製品」を取り、それぞれの軸を更に「既存」と「新規」に分けて4象限のマトリクスとし、この4象限から自社に適した戦略を見極めることができます。
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全社戦略におけるアンゾフの事業拡大マトリクスの説明.
市場浸透は既存の市場に既存の製品を販売して市場へのさらなる浸透を進める戦略で、具体的にはマーケットシェアの拡大か製品の使用頻度の拡大を目指すことになります。新製品開発は既存の市場に新規の製品を導入する戦略で、具体的には開拓済みの販路を利用して新製品を販売したり、既存のお客様に新製品への買い換えを促すことになります。そして、新市場開拓は新規の市場に既存の製品を導入する戦略で、具体的には新たなセグメントへの拡大か地理的拡大を目指すことになります。最後に多角化は新規の市場に新規の製品を導入する戦略で、最もリスクの高い戦略ですが、経営理念にマッチした時や自社の他の事業とシナジー効果(相乗効果)が期待できる際に有効です。このように、自社の成長や事業の拡大はアンゾフの事業拡大マトリクスから検討することができます。(詳細はアンゾフの事業拡大マトリクスとはを参考)

シナジー効果(相乗効果)について

これまで、PPM分析やアンゾフの事業拡大マトリクスが全社戦略を検討する上で代表的なフレームワークだと紹介してきましたが、これらを用いる際には事業間のシナジー効果考慮する必要があります。例えば、日本製鉄グループは鉄鋼以外にも化学事業や建設事業も行っていますが、これらの事業領域で事業を継続するのは鉄鋼事業とシナジー効果があるからです。化学事業であれば鉄を生産する過程で得られる副産物(タールや酸化鉄など)を原料とした化学製品に特化しているため、原料を安く仕入れることができ、建設事業は自社の鉄工場を建設、運営するノウハウを他の建設に役立て、原料である鉄なども安く仕入れることができます。このように全社戦略を立てる上では事業間のシナジー効果も考慮する必要があるのです。

まとめ

これまでをまとめると、企業は経営理念や経営ビジョンの実現に向け、全社視点で全社戦略を立てる必要があり、全社戦略を考える上では、社内のリソース配分が重要で、代表的なフレームワークではPPM分析があります。また、今後の成長や事業の拡大を考えるフレームワークではアンゾフの事業拡大マトリクスが有名です。そして、これらを検討する際には、必ず自社の各事業のシナジー効果も考慮する必要があります。これが教科書通りの古典的な全社戦略の大まかな考え方ですが、もちろん他にも有名なフレームワークや、全く別の考え方で全社戦略を立てる方法もあります。今回の記事では古典的な全社戦略の立て方を通して、全社戦略の雰囲気を何となくでも感じていただけたなら幸いです。また、全社戦略を策定した後は各々の事業で事業戦略を策定する必要があります。事業戦略についてコチラも読んでいただけたなら嬉しいです。
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