ブルー・オーシャン戦略の意味
フランスの欧州経営大学院教授のチャン・キムとレネ・モボルニュは著書ブルー・オーシャン戦略の中で、(赤い血の海のような)競争の激しい既存市場をレッド・オーシャン、(静かで青く澄んだ海辺のような)競争のない新規市場をブルー・オーシャンと呼びました。これまで記載してきたポーターの3つの基本戦略や「リーダー」 「チャレンジャー」 「フォロワー」 「ニッチャー」の戦略はこのレッド・オーシャンでどのように戦うかの戦略です。しかし、レッド・オーシャンは価格競争などが激しく収益を上げるのが厳しいため、キムとモボルニュはブルー・オーシャンに独自のポジションを築くことの重要性を提唱しました。
市場の境界線を引き直す六つのパス
ブルー・オーシャン戦略の第一歩として、まず新規市場を発見する必要があります。著書では、新規市場を発見するためのツールとして市場の境界線を引き直す六つのパスが述べられています。
①代替産業に学ぶ
代替となる商品やサービスで市場の境界線を引き直す方法です。例えば、カラオケ店を運営する場合、ドリンクの種類を増やすことや機材の音質を強化することで他社との差別化を図ることが普通です。しかし、これではカラオケ店同士でシェアを奪い合うことにしかなりません。そこで、カラオケチェーンのジャンカラは他の娯楽サービスにも目を向けカラオケルームでボルダリングができるサービスを開始しました。これにより顧客の「雨の日でも楽しいひと時を過ごしたい」という目的を果たすことができます。このように代替をヒントに市場の境界線を引き直すことができるのです。
②業界内の他の戦略グループから学ぶ
同じ業界でも高価格帯や低価格帯など異なるグループで市場の境界線を引き直す方法です。例えば、アパレル業界のZARAは比較的低価格でありながらも高級ブランド街に店を構え、高級感のある内装にしています。低価格アパレル業界のレッド・オーシャンから抜け出した例と言えます。
③買い手グループに目を向ける
購入者や実際の利用者、インフルエンサーなど買い手の視点を変えて市場の境界線を引き直す方法です。例えば、製薬業界は購入者である医師に対して営業を行います。しかし、デンマークの製薬会社であるノボは糖尿病患者が自らインスリンを投与できる注射キットを発売してヒットしました。
④補完財や補完サービスを見渡す
ホテル+ペットや、映画館+ベビーシッターなど、何かを補うことで市場の境界線を引き直す方法です。(先ほどの①の例で結果的にカラオケ+ボルダリングの形になっていますが、思考方法が異なります)
⑤機能志向と感性志向を切り替える
機能重視→感性重視、感性重視→機能重視のように志向を変えることで市場の境界線を引き直す方法です。例えば、コロナウイルスが流行した際には、これまで機能のみを追及していたマスクがファッション性も持つようになり、カラーや絵柄の種類も多様化して、感性重視なマスクが発売されるようになりました。
⑥将来を見通す
世界の今後のトレンドや規制などから市場の境界線を引き直す方法です。例えば、レンタルビデオ店のTUTAYAは動画コンテンツがネット配信される時代を察知し、書籍や雑貨を販売して店内にカフェも構えることで「生活提案」や「居心地の良さ」、「時間消費」といったコンセプトに舵を切りなおしました。
戦略キャンパスとアクション・マトリックス
市場の境界線を引き直し、新規市場を発見するヒントを得た後、ブルー・オーシャンに乗り出すには、差別化と低コスト化が必要です。差別化のみで新規市場を開拓しても、低コスト化を実現できなければ、直ぐに競合に参入されるため、差別化と低コスト化の二つを行うことが重要なのです。コストを下げるために何を削れるのか、差別化するために何を取り入れるのか検討するため、戦略キャンパスを利用します。
業界の標準的な戦略キャンパス
戦略キャンパスとは、横軸に業界の競争要因、縦軸に顧客が享受するメリットの大小を示したものです。これにより、競合が何に注力しているか、顧客はどのようなメリットを享受しているのか可視化することができます。先ほど、「市場の境界線を引き直す六つのパス」の「②業界内の他の戦略グループから学ぶ」で、低価格アパレル業界のレッド・オーシャンから抜け出した例としてZARAを挙げましたが、その例を記載します。まず、以下にアパレル業界の戦略キャンパスを記載しました。
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アクション・マトリックス
続いて、実際に自社がどう事業を展開していくかをアクション・マトリックスという方法でまとめます。これは、①取り除く、②減らす、③増やす、④付け加えるという四つの視点で、差別化と低コスト化を検討する方法です。ZARAの場合だと以下のようになります。
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戦略キャンパスの描き直し
アクション・マトリックスを踏まえてZARAの戦略キャンパスを描き直すと以下のようになります。
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このようにZARAはプロモーション費用を取り除き、低コスト化を実現しながらも、ラグジュアリー性やファッション性は保つことで、ハイブランドやノーブランドに対して差別化し、ブルー・オーシャンに独自のポジションを築いたと言えます。
あとがき
今回、ブルー・オーシャン戦略について簡単に記載しましたが、これだけで一冊の本になるので、まだまだ様々なフレームワークや実例などが記載されています。もし、興味のある方は是非本を読んでみて下さいね。読みやすい漫画版も出ていますよ。
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